亜麻の実を摂取する利点

 研究者たちは、平凡な亜麻の実にある化合物を摂取することの利点を発見している。
 人類は亜麻の実を5,000年以上にわたって摂取しており、聖書に述べられている主な食品は、亜麻の実、小麦、大麦、とうもろこし、ぶどう酒、マナである。 トルコでは何世紀にも亘って亜麻の実から搾った新鮮な油を料理に使って来た。 しかし亜麻の実に豊富に含まれているある種の化合物が、人類の病気の経過に影響を与えることについて、驚くべき発見がなされたのはたった10年ほど前からである。
 
 亜麻の実は通常の量のたんぱく質、多価不飽和脂肪酸、線維、ビタミン類、ミネラル、と人類に有用な複合炭水化物を含んでいるが、ここで論じるのはそのことではない。 科学者達が亜麻の実とごく一部の他の食品から見出した非常に有益なものはオメガ3脂肪酸である。

 オメガ3脂肪酸は心臓疾患の予防に役だつ必須脂肪酸である。 三種類の脂肪酸がオメガ3の活性を持っていて、それらは頭文字で表すとALNA(アルファ・リノレン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)である。 動物や人間ではALNAは生体内の全ての細胞活性をコントロールする細胞ホルモンに転換される。 これらのホルモンは細胞に、いつ分裂すべきか、分裂すべきでないか、いつ栄養を摂るべきか、いつ老廃物を排出すべきか、いつ骨質を形成すべきか(註1)、いつ骨質を吸収すべきか(註2)、いつ眠るべきか、いつ痛みを感じるべきか、いつ血液を凝固するべきか、などを指示する。 これらの細胞ホルモンなしには、われわれの体の細胞は秩序を失う。 その結果最も問題になるのは過剰な血液凝固と、原因なしに生じる痛み、の二つである。

 オメガ6と呼ばれる別の種類の脂肪酸がある。 オメガ6脂肪酸は、痛む理由がない時にも痛みのメッセージを脳に送ることができる。
 体はこれらのオメガ6からのメッセージと、オメガ3からの「血液を凝固させるな」、「痛みはない」と言うメッセージのバランスをとって働いている。
 食事でオメガ3とオメガ6の比率が適切であれば体は適切なバランスを保ち、本当に損傷がある場合にのみ、血液は凝固し、痛みのメッセージがある。
 オメガ6脂肪酸は高濃度の多価不飽和脂肪酸として、とうもろこし、ひまわり、サフラワー油、精製大豆油に存在する。 我々がこれらの油だけを摂取していて、くるみ油、精製大豆油や亜麻の実油を摂らないならば、オメガ6が過剰となり、オメガ3は不足する。 この不均衡を是正するために我々は亜麻の実、くるみ、大豆を摂取すべきである。

 科学者達が発見したもう一つの癌予防因子が、特に亜麻の実に多く含まれている。 これは「リグナン」と呼ばれ、特殊なディブチールベンジールdibutylbenzyl化合物である。 リグナンは、乳癌や大腸癌の罹患率の低い地域の住民では食事や血液、尿の中にあり、他方食事や血液、尿中にリグナンが少ない人々では乳癌や大腸癌が多い。 世界中の多くの名高い研究センターの癌研究者たちは、この相関関係が正しいことを認めている。 幾つかの研究センターでは、何故そうなのかを確かめようと試み、リグナンに抗エストロゲン活性があると言うことを明らかにした。 以前からエストロゲン活性が乳癌や大腸癌の発生率を高めていることが知られていたが、研究者たちは、抗エストロゲン効果をもつ化合物を発見するまで、エストロゲン活性をどのようにして下げるのか知らなかった。 その中で最も効力があるのがリグナンである。
 
 リグナンは最初、オーツ麦、とうもろこし、ライ麦、蕎麦の実や小麦で発見された。 これらの穀物は、もし全粒穀物食で生活しているならば、乳癌や大腸癌発生を予防するのに充分な量のリグナンを含んでいる。 全粒穀物に含まれるリグナンの濃度は2〜8mg/kgである。 世界中で名高い癌研究所の一つであるカロリンスカ研究所(註3)のアルデルクルツ(註4)の研究発表によれば、亜麻の実は800mg/kgのリグナンを含み、最良の全粒穀物の100倍に相当する。 パンと比較するならば、テーブル・スプーン一匙の亜麻の実は癌の予防については全粒パン一塊りに相当する。 このことは、全粒穀物を食べていようといまいと、世界中のすべての人々がテーブル・スプーン一杯の亜麻の実を摂取するだけで、乳癌や大腸癌を予防できることを意味している。 二重に予防をしたい人は全粒パンとテーブル・スプーン一杯の亜麻の実を摂ればよい。

 テーブル・スプーン一杯の亜麻の実は、多くの魚油カプセルと同じく3000mgのアルファ・リノレン酸を含有している。 我々は魚油カプセルが心臓疾患の予防にいかに有効か知っているが、
亜麻の実には魚油カプセルの持つ味やコレステロール濃度が高いこと、飽和脂肪酸が多いことなどの欠点はない。 

 ご覧のとおり、毎日亜麻の実を摂取することには二つの利点があり、何も欠点や副作用は知られていない。 これは単なる推測ではない。 世界中の研究者達が亜麻の実に高濃度に存在するオメガ3脂肪酸とリグナンの二つの物質を摂取することの利点を報告している。


註1:when to lay down boneは「骨質を形成する」と理解され、「造骨細胞osteoblastが働く」ことを意味すると考える。
註2:when to absorb boneは「骨質を吸収する」と理解され、「破骨細胞osteoclastが働く」ことを意味すると考える。 生体の骨は破骨と造骨のバランスで保たれている。
註3:原文ではKarolinskeとあるが、Karolinskaが正しい。
註4:原文ではAldercrutzとあるが、AldercreutzかAdlercreutzではなかろうか? 原著を見なければ分からないが、両者ともGoogle検索で出てくる。 後者の発表論文の方が多く、フィンランド、ノルウェー、オランダ、イギリス、ロシアなどの研究所にまたがっている。 恐らく、各国に弟子がいて、それぞれの施設から発表した論文に連名で載るためであろうが、単独ではノルウェーからである。 Pub‐Med検索では前者は出て来ないが、Bob Arnot の“The Breast Cancer Prevention Diet”には、Herman Aldercreutz,et al.の発表した Diet and plasma androgens in postmenopausal vegetarian and omnivorous women and postmenopausal women with breast cancer. American Journal of Clinical Nutrition 49(1989):442-443.と言う論文が引用されている。