従容録(しようようろく) 第十八則 趙州狗子(じようしゆうくし)


【示衆(じしゆう)

水上の葫蘆、按著(あんじやく)すれば便(すなわち)ち転ず。
日中の寳石、色、定まれる形無し。
無心を以ても得べからず。
有心を以ても知るべからず。
没量
(もつりよう)の大人(だいにん)も語脈(脉)裏(ごみやくり)に転却(てんきやく)せらる。
還って免れ得る底有りや



【本則
(ほんそく)

(こ)す。
僧、趙州(じようしゆう)に問う。狗子(くし)に還って佛性有り也、無しや。
州云く、有。
僧云く。既に有、甚麼
(なん)としてか却って這個(しやこ)の皮袋に撞入(とうにゆう)するや。
州云く。他の知って故
(ことさら)に犯すが為なり。

叉、僧あり問う。狗子(くし)に還って佛性有りや也無しや。
州云く、無。
僧云く。一切衆生、皆佛性有りと、狗子什麼
(なん)としてか、却って無為る。
州云く。伊
(かれ)に業識(ごつしき)の有り在るが為めなり。


【頌
(じゆ)

狗子佛性有。
狗子佛性無。
直鈎
(ちよつこう)、元(もと)、命に負(そむ)き魚を求む。
気を遂
(お)い、香を尋ぬ雲水の客(かく)。
嘈嘈(そうそう)雑雑(ぞうぞう)として分疎(ぶんそ)を作(な)す。
平かに展演(てんえん)し。大いに鋪舒(ほじよ)す。
怪しむこと莫れ、儂(わ)が家、初めを慎まざることを。
瑕疵
(かし)を指点(してん)して、還って璧(たま)を奪う。
秦王(しんのう)は識らず藺相如(りんそうじよ)